NYT(2023.07.24)Brexitについての記事
“In the U.K., a disaster no one wants to talk about”


(イギリスでは、誰もが話したくない不幸な出来事があります)

By Michelle Goldberg

 

 

 

イギリスでは、国が欧州連合を離脱するという投票は、国際的に保守的なポピュリズムの台頭における決定的な瞬間であったという点について、重大な誤りだったという認識が広がっています。

批評家が予測した通り、Brexitはインフレーション、労働力不足、事業閉鎖、旅行の混乱を引き起こしました。

The U.K.’s Office for Budget and Resposibilityによると、EU離脱により英国の国内総生産(GDP)が4%減少しました。同庁の議長によれば、英国経済への被害はCovidパンデミックと同じ「規模」だそうです。

この苦しみの為に、イギリス人の半数以上が反Brexitに転じた。今週発表されたYouGovの世論調査によると、イギリス人の57%がEU離脱に投票したことは間違っていたと述べており、僅かな差ではあるが、EUに再加盟したいと考えている人は半数を超えています。かつては「ブレグジット氏」として知られていた極右政党であるイギリス独立党の前党首であるナイジェル・ファラージ氏(Mr. Nigel Farage)も、2023年5月にBBCに対して「Brexitは失敗だった」と述べています。

この混乱は、もちろん、予測可能であり予測されていました。だからこそ、私が今夏にイギリスを訪れている際に、Brexitがどれほどうまくいかなかったかについての議論が、Brexitに反対した多くの人々の間でも不思議な政治的なタブーとして口にしないことに驚かされています。

7年前(2016年)、Brexitは、ドナルド・トランプを権力に押し上げたコスモポリタニズム(共同体主義)への反乱の前触れでした。両方の事業、つまりイギリスのEU離脱とトランプのアメリカでの統治は、結果的に壊滅的なものとなりました。両方の国は疲弊し、衰弱しました。しかし、アメリカではトランプについて話すことが絶えず続いていますが、イギリスでは多くの人々がBrexitの功罪についてはあまり発言がありません。

「Brexitはとても毒になっている」と、Brexitが誤りだと同僚に認めるよう呼びかけているトーリー党の議員、トバイアス・エルウッド氏(Tobias Ellwood)は私に語りました。「人々はこの問題に対して多くの時間と苦痛と苦悩を費やしてきたのです。」彼はそれを「傷」と例え、人々は触れたくないのだと言いました。ロンドン市長であるサディク・カーン氏(Sadiq Khan)は、EU離脱の結果について議論することを熱望するわずかな労働党の指導者の一人で、「omeruta(沈黙の誓い)」と呼ばれる無言の誓いがあると述べました。「それは部屋にいる大きな象」(厄介者)(the elephant in the room)と彼は私に話しました。「誰もがそれについて話さないことに私はイライラしています。」

Brexitの功罪の結果について誰も、あるいはほとんど誰も話さない理由の一つは、労働党の人口統計に起因しています。労働党の有権者のうち、約4分の1から3分の1程度がBrexitを支持しており、これらの有権者は「レッド・ウォール」と呼ばれる地域に集中しています。これは、かつて労働党を堅く支持していたが2019年の選挙で右派に傾いた、ミッドランド地方や北部イングランドの労働階級地域を指します。「これらの有権者はBrexitについての会話を望んでいない」と、労働党の指導部に近いシンクタンクである「Labour Together」のディレクター、ジョシュア・サイモンズ氏(Joshua Simons)が述べています。

徹底的な疲労もまた、Brexitについての議論を歓迎しない要因となっています。2016年の欧州連合離脱の投票から2020年の最終合意までの間、この問題はイギリスの政治を完全に占拠し、多くの人々が単に前に進みたいと考えています。
サイモンズ氏は、第三の要因も存在すると主張しています。それは、民主的な国民投票の結果を尊重しなければならないという感覚です。彼は、彼の助言者である政治哲学者ダニエル・アレン氏(Danielle Allen)が2016年の投票後に述べたことを引用しています。「結局のところ、民主主義では、時にはみんなでクレイジーなことをすることがあります」とサイモンズ氏は言います。「そして、重要なのは、そのクレイジーなことが良いことだったのか悪いことだったのかではなく、一緒にやっているということです。」
私がより極端な国(アメリカ)から来た者として、この考えは多少異質に感じました。もしトランプ支持者の有権者が国に対してコストの高い、不人気な政策を押し付けたら、次の政権の民主党が元に戻すことが出来ます。しかし、英国では、選挙とは違い、まれではあるが重要な問題に対処するためだけある国民投票が行われ、私のような外部の人間には理解しにくい政治的な重みがあります。
カーン氏は「国民投票を尊重しなければならない」と述べています。「何回も続けて国民投票を行うことはできません。それは選挙民に対する不敬です。」それでも、Brexitが引き起こした害に直面しない限り、国は前に進むことができないと主張しています。「問題が何であるかを診断しない限り、予後はどうやって出せるのでしょう?」少なくとも近い将来、イギリスはEUに再加盟することはありませんが、カーン氏とエルウッド氏は、現在よりも貿易や移民により密接な関係を築くことができ、おそらく将来的には欧州単一市場に戻ることができると主張しています。これはEU諸国、ノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインが含まれる貿易協定です。
エルウッド氏は「次の選挙後、私は全ての政党が単一市場に再加盟する考えを受け入れると考えています」と述べており、「それが次の5年以内に実現する方に賭けます。」と付け加えています。
Brexitの銀の輝きは、欧州の他の国々にとって戒めとなる点です。イギリスが2016年にEUを離脱すると、欧州プロジェクトに関心を持つ一部の人々の間で、フランスやイタリアが次の候補になるのではないかという恐れがありました。しかし、ガーディアン紙によると、1月時点でEUを離脱することに対する支持は、データが利用可能な全ての加盟国で減少しています。大陸全体で政府が右傾化して、EU自体もより保守的な方向に動いているものの、崩壊することはありません。「他の国がEUから離脱することはないと思います。」とカーン氏は言っています。しかし、それはもっと大きな教訓です。大半の西洋諸国が絶えず再学習しなければならないものです。右翼ナショナリストのプロジェクトは、大きな華々しい姿で始まりますが、口に出せないほど悲惨な終わりを迎える傾向があります。